『万葉集』を訓(よ)む(その二千九十二)

 今回は、一七二五番歌を訓む。題詞に「麻呂歌一首」とあり、本歌は「麻呂(まろ)の歌(うた)」である。「麻呂(まろ)」について、金井『萬葉集全注』は次のように注している。

 ○麻呂 未詳。左注にこの歌以前を人麻呂歌集の歌とするので、「麻呂」は人麻呂とする説が多い(私注、全註釈、窪田評釈など)。しかし人麻呂ならば「人麻呂」と記し「麻呂」とは記さないだろう。「麻呂」という固有名詞は、この時代に多いから、たんに「麻呂」と記せば当然に「麻呂」という名の他人の名となり、人麻呂をさすことはできない。また一人称代名詞としての「麻呂」は平安時代以降であって、上代に確例は