火神と呼ばれた男

 逸木裕の「四重奏」を読了した。著者はミステリー作家で、「虹になるのを待て」で2016年第36回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、同書を改題した「虹を待つ彼女」で作家デビューしている。本書は、放火事件に巻き込まれて焼死した知人のチェリスト黛由佳の死に不審を感じ、その死の真相を探ろとする友人でチェリストの坂下英紀の姿を描いたミステリーである。なお本書は、坂下が由佳の死の真相を探る現在の部と、彼が彼女と知り合った七年前に始まる過去の部がカットバックで描かれている。
 チェリストの坂下英紀は志田音楽大学を卒業した後も音楽関係には就職できず、池袋の漫画喫茶で夜のバイ