時を超えた純愛

 芦辺拓の「時の審廷」を読了した。著者の内芦辺拓はいわゆる新本格派のミステリー作家で、ミステリーに対する造詣の深さ、博覧強記で知られるている。本書は、弁護士の森江春策を名探偵役としたシリーズの第十二作、「時」シリーズの第三作であり、戦前の満州ハルビン、終戦後の東京、そして現代の日本の三つの時代で起こった重大事件の謎解きが、カットバックの手法で描かれている。
 昭和二十四年(1949)年7月5日の朝、銀色のライターを持ったロイド眼鏡の紳士は、出迎えの車を老舗百貨店の本店の前に待たせて店に入った後に失踪した。その後彼はM財閥の本館に向かう地下道に連れ込まれ、