少年が非行に走った理由

 柚月裕子の「風に立つ」を読了した。著者は、2008年に「臨床真理」で第7回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞してデビューしたミステリー作家である。本書は、家庭裁判所からの補導委託により非行少年を迎え入れた南部鉄器工房人々の姿を描いた作品である。
 物語の舞台は、岩手県盛岡市の南部鉄器工房「清嘉」であり、視点人物は工房を営む小原孝雄の息子で三十八歳、独身の小原悟である。悟の母親の節子は既に他界し、妹の由美は居酒屋の店主と結婚して家を出ている。悟は口数が少なく、頑固で身勝手な父親に反感を抱きながら育っており、父子関係はあまり良くない。悟が南部鉄器の職人