「梶よう子」の日記一覧

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斗酒なお辞さない師弟

 梶よう子の「墨の香」を読了した。著者は時代小説を主なテリトリーとする作家である。本書は、理由もなく嫁ぎ先から離縁され、実家に戻って筆法指南所(書道教室)を始めた女流書家を主人公とした時代小説の連作短編集である。  岡島雪江は旗本の娘であり、旗本の森高章一郎に嫁いでいたが、ある日理由も告げずに離縁される。彼女は幕末の伝説的な書家巻菱湖の弟子であり、実家に戻った後、若い娘達を相手に筆法指南所を開く…

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梶よう子 の 父子ゆえ 摺師安次郎人情暦2

★3.5 シリーズ8年目で2作目。前作のあらすじをおさらいしてから読み始め。 前作のあらすじはこちら ⇒ https://smcb.jp/communities/5635/topics/1854603 亡き妻の実家に預けていた息子・信太を引き取った。信太は6歳、前作から2つ年を重ね彫師になりたいという。 長屋のおたきや竹田、居酒屋のお利久などの取り巻きは変わらない。安次郎を兄いと慕う弟弟子の…

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梶よう子の「墨の香」。

★3.5 代々、奥右筆を務める千三百石の旗本岡島家の娘・雪江は3年で離縁された。元夫で目付の森高章一郎は理由を言わない。 26歳の雪江には3つ下の弟・新之丞と母の吉瀬、父はひとり知行地に隠居。 実家で始めた筆法指南所には嫁入り前の武家娘たちが通ってくる。彼女らが持ち込んでくる揉め事に、あるいは江戸城内のごたごたに巻き込まれていくのだが・・。 うわばみの雪江、登城時にファンの娘たちを集める新…

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梶よう子の「花しぐれ  御薬園同心 水上草介3」。

★3.5 シリーズ3作目で最終巻。 小さな物語も、それぞれが読者に薬効かと思わせるような癒しを与えてくれた。 「一朝の夢」からだが、これがこの作者の原点のような気もする。 多くの植物と木々の名が次々と登場し、その薬効が語られる。医薬ものは少々ハードルが高かったかもしれないが、もっと続けてほしかった。 ちょっと時間軸の巻き方が早すぎたのか、草介と千歳の仲も決着をつけなければならなくなったよ…

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富豪の絵師

 梶よう子の「北斎まんだら」を読了した。著者は時代小説を主なテリトリーとする作家である。本書は、晩年の葛飾北斎とその娘のお栄の暮らしを、弟子の三九郎(高井鴻山)の目を通して描いた時代小説である。  信州小布施の豪商の惣領息子で十五歳の高井三九郎は、絵師葛飾北斎に弟子入りしようと考えて江戸に出て来る。三九郎は背丈が六尺を超える長身であるが、目元の涼しい男前の若者であり、かつて京で絵を学んでいた。初…

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梶よう子の「北斎まんだら」。

★3.5 北斎(70余)、娘お栄(40歳頃)の一時期のみを切り取り生々しく描いている。 信州小布施の豪商の倅・高井三九郎(鴻山)の北斎への弟子入りから話は始まり、この男の視点で展開する。 善次郎(渓斎英泉)とお栄との男女の関係、孫の重太郎が重要な役どころ(北斎の似絵を描く)でミステリータッチでからませている。 それにしてもめんどうくさい親娘の関係を、実にリアルに描いてみせる。 北斎画のか…

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甘い飴の効能

 梶よう子の「葵の月」を読了した。著者は時代小説を主なテリトリーとする作家である。本書は、徳川10代将軍家治の継嗣であった徳川家基の急死をモチーフとしたサスペンス風時代劇である。  西丸書院番組頭立原惣太夫の跡取り娘志津乃の幼馴染で許婚者だった坂木蒼馬は、西丸書院番として仕えていた家基が毒死したことに責任を感じて出奔し、勘当されていた。父の惣太夫と継母の時世は、蒼馬の親友でやはり西丸書院番の高階…

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梶よう子の「五弁の秋花  みとや・お瑛仕入帖2」。

★3.3 シリーズ2作目。6つの連作短編。 38文均一の小間物屋「みとや」の品物にまつわる物語。 周辺の登場人物も増えてきた。呉服屋の若旦那・寛平、猪牙をあやつる猪の辰こと辰吉、近くに煮売り屋・はなまきを開いた元花魁の花。 後半に登場するお瑛の幼馴染・おせんは今回はスポット的な扱いか。妬み心の物語。 全体に貫くのはお瑛の見つけた母娘の錦絵、己の出自を疑ってしまうのだが・・・。 仕入れ担…

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梶よう子の「葵の月」。

★3.3 将軍家治の嗣子・家基が鷹狩の最中に不調を訴え急逝し、一橋家斉が世子となった事件をミステリー調に描く。 家基に寵愛されていた書院番の坂木蒼馬は失踪し、悲嘆に暮れる許婚者の志津乃前にかつての剣友・高階信吾郎が現れた。 失踪した訳を求め蒼馬を探す志津乃と意外な行動をとる信吾郎を描いていくが、事件の真相は・・・。 盲目の娘・おもとを登場させたり、典医や薬草に触れたりと物語の着眼点は面白い…

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海を渡った浮世絵

梶よう子の「ヨイ豊」を読了した。著者は時代小説を主なテリトリーとする作家である。本書は、明治維新の激流の中で、浮世絵の絵師の名門である歌川派を率いて苦闘した四代目歌川豊国の半生を描いたものである。  元治元年12月(1865年1月)、歌川派の大名跡の三代歌川豊国(初代国貞)が亡くなる。江戸の版元達の間では、その弟子で娘婿の清太郎(二代国貞)が四代豊国を襲名するか否かに注目が集まっている。黒船来航…

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梶よう子の 「ヨイ豊」。

★3.5  4代目歌川豊国の半生を描いている。 幕末、浮世絵界をけん引した歌川派、3代豊国に国芳など今尚脚光を浴びているが、4代目豊国についてはほとんど知られていない。 物語は3代豊国の娘婿として入った清太郎の立場で浮世絵界を詳述していく。各流派の特徴、製作の工程、版元との関係、歌舞伎界、吉原との繋がりなど、など。 作者は豊国を継ぐべき立場と、絵師としての技量の至らなさ、時代の急激な変貌の…

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梶よう子の「連鶴」。

★3.3  連鶴の話を各所に登場させ、桑名を象徴する要として使っている。 時代は慶喜の大政奉還から鳥羽伏見の戦いまでの期間、翻弄される桑名藩の姿を丈太郎、栄之助の兄弟の目を通して描いている。 坂本竜馬の暗殺や薩摩藩による江戸市中の攪乱をミステリー調に展開させているのは面白いが、肝心の主人公2人の思いがうまく伝わってこないのは残念。 2人が本当に守りたかったものは何なのだろうか・・・。家老の…

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梶よう子の「ご破算で願いましては: みとや・お瑛仕入帖」。7

★3.2 日本橋室町の「濱野屋」という小間物屋の息子・長太郎と娘・お瑛の兄妹は、永代橋の事故で両親を失った。おまけに父親の残した借金で店まで失ってしまう。 あれから5年、長太郎22歳、お瑛16歳の時、母親の仲良しだったという柳橋の料理茶屋「柚木」の女将・お加津の世話で茅町に38文均一売りの小間物屋「みとや」を出した、兄は仕入れ、妹は店番をやることになった。 元火盗改めのご隠居が後ろ盾、何かと…

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梶よう子の「桃のひこばえ」。

★3.5 シリーズ2作目。前作の作者による紹介文に「草花の知識は人一倍という草食系ならぬ、完全植物性男子。そんな草介が御薬園内外で起きた事件、騒動を、なにげなく解決へ導く。」とあったが、この巻でもそれは変わらない。 今回は見習い同心の吉沢や長崎通詞の野口などの外的な刺激が、草介に何かしなければという意識をかきたてる。そんな中に千歳の縁談話、気になって仕方ないのだが、千歳は小石川御薬園の西側預か…

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梶よう子の「いろあわせ」。

★4.0  再読。5編からなる連作短編。各編のタイトルに摺りの技法をもってきて、それに人生訓を重ねたなかなか凝った構成。安次郎は8年前にお初と祝言をあげ、4年前に男の子・信太を授かったが、お初は産後の肥立ちが悪く亡くなり、信太はお初の実家に預かってもらっている。安次郎は12の時の火事で親兄妹を失い、摺り師の親方のもとで修行をした。弟弟子の直助は安次郎に憧れ、摺長に転がり込んできた若者。友恵との仲…

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梶よう子の「ことり屋おけい探鳥双紙」。

★3.3 鳥に係る7編の連作短編。文政11年(1828年)日本橋小松町で飼鳥屋・ことり屋を営むおけいは販売用の小鳥の世話に忙しい。3年前に青く光る鷺を探しに出かけた夫の羽吉は行方不明となり、その寂しさをまぎらす相手は九官鳥の月丸。鳥の研究者でもあった曲亭馬琴がおけいの相談相手。他に町医者の沢渡貢。9つになる娘・結衣を通して北町定廻り同心の長瀬八重蔵と親しくなり、事件解決の手助けも。結衣は母親が暴…