「竹取幻想」の日記一覧

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竹取幻想81

ふと風が吹いたのでしょうか、脇に置かれた白百合の花が一瞬頷いたように見えたのもかわいらしく思えます。  その時のことです。 旅装束のまま、一人の影が回廊から歩いてきて、笠の紐を解きながら私の傍にすっとお座りになられました。 「しばらく。ご無沙汰しておりましたなあ」 多少はしわがれているものの、その覚えのある艶のある低い声に私は驚き、横に着座した男を見やりました。やはり西行さまでした。 「…

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竹取幻想79

・ 宿所にて皆さんと食事を頂きながらひとつ話題になった事をお伝えしましょう。佐伯さまの祝詞奏上の事です。仲光さまが、あの祝詞はどうも初めてお聞きしたものかなと仰いました。 「石清水八幡宮宮司である儂はよく知っておる祝詞であるし、儂も時として奏上することもあるが、なるほどその機会は少ない。かつ、たくさんある神社もその祝詞を奏上できるのは限られてはおる。ご存じなくても不思議では…

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竹取幻想78

・ 「よいかの、子どもたちよ。これから神様にお祈りするのだが、お前たちも心の中で神様にお祈りするのじゃぞ。自分が神様に一番お願いしたいことを祈るのじゃ。さすれば祈りは神様に届き、いつかお前たちの願い事は成就するであろう。なに?一つだけ?あはは、そうだな、お前たちの願い事ならいくつでも構わんよ。あと一つ大事なことはな。その願い事には自分以外のことをお願いしなさい。難しいかな。まあ大人でも難しい…

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竹取幻想77

「佐伯景弘殿はな、儂が知る限りその人徳に及ぶ者はおらんの。文字通り天空海闊なるお方での。彼の陰口は聞いたこともない。実際儂は何度か会っておるが温厚篤実。神に仕える者として佐伯殿ほど相応しい者はそうはおらん。神主と言えど中には不届き者も結構いる。まあ世の中同じだが、彼と面すれば姉上もよくおわかりになろうて」 佐伯さまは成清の申したとおり、空や海のようなお心の広く深い方でした。 「船に船員の方…

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竹取幻想76

終章      一 厳島記 舟のスクリーンが遠くの銀河をまだぼんやりと鈍いスペクトルで映し出している。無数の星々は相変わらず点滅しながら水晶にろ過された光のように眩くあらゆる色彩を放ち、光は舟の天蓋を流れるように滑っていく。 僕はずっと小侍従の物語る話を聴いていた。それは僕には驚きの世界だったのだ。マザーのデータはデータ、で、しかなかった。人類が蓄積した膨大なデータ。それ…

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竹取幻想75

まだ薄霧の流れる道を草露に濡れながら湊に向かいました。兼綱さまはおろか日ごろお話し好きな清親さまやつわぶきまでみな無言で坂を下りていきます。思うところがそれぞれに深いのでしょう。私も同じです。いよいよ厳島に着く・・・都を出発した時の緊張と高揚感も今はただ静かに歩みを進めるのみです。私はしかしそれだけではありませんでした。昨夜の眠りのなんと心良かったことか。これは夢なのか。さえぎるもの…

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竹取幻想72

・ 黄山号は仙酔島と呼ばれる島をぐるりとまわり鞆の浦に着岸しました。 仙酔島・・・仙女の酔いしれる島ですか、なるほど美しい島です。つわぶきが子どもたちに話していた物語の一つに浦島伝説がありましたが、弟の成清によるとこの島や鞆の浦にもそのような物語があるそうです。特に仙酔島には神秘的な五色の岩まであるとか。 時空を軽々と超える物語。子どもたちはそのお話に目を輝かせて聞き入って…

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竹取幻想71

・ 風を受けてゆるやかに帆が張られ、黄山号は青い鏡のような海の上を滑るように進んでいきました。すっかり明るくなった空の下に遠く島々が瑠璃色の輝きで浮かんでいます。 無口島を過ぎ朝日に照らされた大海原が広がります。椅子をご用意いただいたのでずっとこの景色を眺めていたいのですが、お茶の用意ができましたと周さんに告げられ船室に戻りました。つわぶきがいません。つわぶきさんは子どもと出かけられましたと…

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竹取幻想69

・ まだ星の煌めきが残る少し肌寒い朝に黄山号は出港しました。 子どもたちがまだ寝ているので起こさないようにと静かな出港です。李船長が昨夜航海長始め主だった方々に打ち合わせした通り、船長はじめ船員さん正確に動いていらっしゃいます。両舷の櫂が静かに波間に刺さりゆっくりと寸分の狂いもなく漕いでいきます。目指すは鞆の浦です。児島泊りが後方に夜明けの光を受けながら浮かんできます。 …