ふと風が吹いたのでしょうか、脇に置かれた白百合の花が一瞬頷いたように見えたのもかわいらしく思えます。
その時のことです。
旅装束のまま、一人の影が回廊から歩いてきて、笠の紐を解きながら私の傍にすっとお座りになられました。
「しばらく。ご無沙汰しておりましたなあ」
多少はしわがれているものの、その覚えのある艶のある低い声に私は驚き、横に着座した男を見やりました。やはり西行さまでした。
「驚かせてすまぬ。いま、着いたばかり。貴女がここにいると聞いてすっ飛んで参った」
西行さまは額の汗を拭いながらお話を続けました。
「貴女が宮中を去って厳島に向かっ