記憶の消滅と入れ替え

 中村文則の「私の消滅」を読了した。著者は芥川賞作家で、純文学畑の出身であるが、大江健三郎賞を受賞した「掏摸」の様に、ミステリー風の作品もあり、最近はミステリー風の作品が多くなっている。本書は、愛する人を自殺に追い込まれた精神科医の復讐を描いたものである。
 「僕」は、古びたコテージの机の上に置かれた手記を読む。その手記の表紙には、「このページをめくれば、あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない。」と書かれている。手記はおそらく、小塚亮大という男が書いたものらしい。
 その手記は、彼の少年時代に、誘拐殺人に遭ったの友人の妹の葬儀の思い出から書き始め