10万本の献木

 朝井まかての「落陽」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説をテリトリーとしている。本書は、明治神宮造営をモチーフとし、明治という時代と、その時代を生きた日本人の精神を問う歴史小説である。
 本書の物語は、明治45年に始まる。本書の主人公の瀬尾亮一は、旧制五高から東京帝大へ進むが、近代文学に傾倒して中退した若きインテリである。帝大中退後は、一流新聞社の万朝報に入社したが、女性問題によりそこを追われ、三流新聞社の東都タイムスで新聞記者をしているが、裏では取材事実を利用して恐喝を働くまでに落ちぶれている。その瀬尾が、明治天皇重体の極秘情報を入手し、社主