天皇制の神話を創った男

 馳星周の「比ぶ者なき」を読了した。著者は、ロマン・ノワール(暗黒小説)作家である。本書は、藤原家の繁栄の基礎を築いた藤原不比等の、己を神に近付けようとした陰謀を描いた歴史小説である。なお、タイトルの「比(なら)ぶ者なき」とは、「等しく比ぶ者なき」であり、不比等を意味する。
 物語は、持統3年(689年)、天武天皇と持統天皇の間に生まれた草壁皇子の葬儀の場面から始まる。天武天皇の皇后の鸕野讚良(後の持統天皇)は、天武天皇の後継者として草壁皇子を考えていたが、天武天皇の喪が明ける前に草壁皇子が亡くなったため、草壁皇子の息子の軽皇子(後の文武天皇)に天皇位を