元慶の乱の勝者

 高橋克彦の「水壁-アテルイを継ぐ男-」を読了した。著者は直木賞作家で、推理小説を始め伝奇小説、時代小説等を手広く手掛けている。本書は、元慶の乱をモチーフとし、蝦夷の英雄アテルイの子孫の若者の活躍を描いた歴史物語である。
 物語は元慶元年(877年)秋に始まる。その頃、日本全国で飢饉が発生したため、東北地方の大和朝廷支配地である陸奥、出羽で苛政に喘いでいた朝廷に帰属した蝦夷の俘囚に山野に逃亡する者が増えたが、逃亡した俘囚たちの多くは餓死した。その惨状を黙視できなかった秋田物部氏の長の物部日明は、密かに大和朝廷への反抗を考え始める。根拠地の尾去沢から陸奥国