◇ 長 月 近 詠 ◇


ほろほろと空を泣かせて花薄

砂子吹く丘を転げて実浜茄子

大楡を借りて老蝶雨宿り

静穏の水輪ひろがり桐一葉

蛇行せし釧路湿原秋走る

終生を風に散らして鳳仙花

片雲の行方も知らぬ草雲雀

漂泊の身を遠ざけて秋の蝉

北向きの入江に傾ぐ月の秋

上窓へ鯖雲二匹泳ぎたる

方寸の厨さだかに秋めけり

ありふれた戯言語る赤のまま

磯小屋に脚を抱へる秋の蠅

月頼る白き墓標の掠れ文字

方丈に座して巻かざる秋簾

再訪の関路を西へ沢桔梗

水面に颯爽と翔つ胸の月

サロベツの果に契りを風の色

隅々に八月の風吹き渡る


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