◇ 神 無 月 近 詠 ◇


行きずりの人に非ずと吾亦紅

風葬の諸島さだかに月祀る

名月を二様に見やる夫婦かな

言ひかけて雨月の傘を畳み込む

月白や袖の解れを隠しおく

ちぎれ雲飛ぶ秋川に中州あり

書きかけの思ひ乱るる野分雲

海北に据ゑて残月波に消ゆ

野の涯の空を見上げて花紫苑

缶ビール翳す月見の翁ゐて

よひやみに硯海の水動かざる

崖下の野菊おいでと渓遡行

石段につまずき正す荻の風

露の世にほぼ一端の澪標

風にしてまた不知火の身となりぬ

矍鑠の言葉を称え菊の友

ほろ苦き胸裏吹かるる風の色

求道の歩みそろりと遠案山子

初紅葉と言ふ君に似た純情


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