◇ 師 走 近 詠 ◇

まだ雪を見ずこれほどの初時雨

冬枯の鈍くはみ出す草の翳

牡丹焚く狼煙となりぬ五輪の書

揉み手して古螳螂と相対す

北窓を塞ぐをんなの力瘤

土塊にもたれ青女の旅枕

黙々と初雪の降る幾山河

暮らせどもなほ裂帛の影冴ゆる

愛日の痩畑仕舞ふ隠れ里

笹鳴の声ちりぢりに日を落す

薄れ日の山彦浅き冬を曳く

正道を説く焼鳥を持つ翁

裸木を深々と抱く夜のしじま

午後二時の仔猫をあやす冬の蠅

優しさをそっと伝えて日向ぼこ

白息の追ふて消えゆく恋慕かな

有閑を風致に譬え枯野人

熊穴に入る寸心の深情け

綯交ぜの虚実を知りて木の葉髪

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