虫穴に入る男らの無帽なり
秋惜しむ人と別れて北の街
事多き十月なりし爪の筋
黄昏に鳥居をくぐる虫の闇
取り成しの空言むすぶ秋北斗
九年母の肌に触れやる手の温み
嬰児の指吸ふ音や秋うらら
柏手を打たれ飛び立つ秋の蝶
梢にも少し傷あり鵙の声
手庇の空を抱えて秋日影
ひねもすに晩歳の色変へぬ松
朱きまでただ秋茱萸の哀しくて
薄々と断つ月白の憂いあり
薄寒の日がな落ちゆく柞原
牧閉す斜交いのバラ線弛む
世の常を翁粛々と後の月
やすやすと懐紙千切りぬ雪迎へ
ポケットの暗がりに降る秋の雪
浜風の浚う有情や茨の実