◇ 霜 月 近 詠 ◇


虫穴に入る男らの無帽なり

秋惜しむ人と別れて北の街

事多き十月なりし爪の筋

黄昏に鳥居をくぐる虫の闇     

取り成しの空言むすぶ秋北斗

九年母の肌に触れやる手の温み   

嬰児の指吸ふ音や秋うらら

柏手を打たれ飛び立つ秋の蝶

梢にも少し傷あり鵙の声

手庇の空を抱えて秋日影

ひねもすに晩歳の色変へぬ松

朱きまでただ秋茱萸の哀しくて

薄々と断つ月白の憂いあり

薄寒の日がな落ちゆく柞原

牧閉す斜交いのバラ線弛む

世の常を翁粛々と後の月

やすやすと懐紙千切りぬ雪迎へ

ポケットの暗がりに降る秋の雪

浜風の浚う有情や茨の実