川崎一洋「弘法大師空海と出会う」

 本書は弘法大師空海について知りたい人には、空海その人についても、空海がどのように信仰されてきたかもバランスよく紹介されており、ここから更に詳しく知りたい人が探求を始める足場と成り得る好著である。空海については多くの著作があるが、意外と全体像の分かる入門書が見当たらず、本書はその役割を果たすものであると思う。

 私が特に興味を持って読み進んだのは第二章の「霊跡を巡る」である。霊跡には弘法大師伝説があり、史実としての空海その人とはかけ離れているかもしれないが、長く人々に信仰されてきた弘法大師像が浮き上がってくる。空海の幼少期の伝説はあまり語られることはな