連載:運慶から

「トラベルヘルパー」532

「この辺に本屋はある?」
バサマが言った。
「この近くにはありませんね。小さな自営のお店はどんどん潰れたんですが、本屋もそうなんです。もう駅に行かないとないですね。」

でも、どうして本屋なのだろう。
「本屋で買いたい本があるんですか?」
「字を書くあれ、あれが欲しいんだよ。」
私は芭蕉の「奥の細道」をなぞる練習帳のような一冊がかなり売れたことを思い出した。

「息子さんが来た時に連れて行ってもらえるといいですね」
そうは言ったが、こうした介護施設で知的好奇心を持った人がいることに軽い衝撃を受けていた。そんな気持ちがあって自分で歩ける人が、自分より重症の