『晩秋坂 ~風~』

確か、あんまりおもしろくない名前、早く言ってしまえば、平凡な名前がついていた。 いや、ついてるんだけど、私は、この坂のことを、心の中で、誰にも聞こえないような小さな声で、晩秋坂と呼んでいる。

なぜか、どういうわけか、今の時期だけしか、この坂を通らないのである。 だから、私にとっては、晩秋坂なのである。

薄い雲が少したなびいている午後三時ごろ、いつものように、この坂を上ってゆく。
『また、お会いしましたね』
後ろから、聞き覚えのある声である。
『あら、おひさしぶりです。もう、一年たちましたか』
『そうですね。そろそろ、あなたに会えると思ってました』