「あなた、来る時変わった駅名気付かなかった?」
「いいえ」
それどころではなかったのだ。前に座った彼女はなかなか先を言わない。
「愛するの愛に子供の子で愛子」
お手上げだ。
「赤ちゃん抱っこしてどうする?」
「あやしますね?あやす?」
その時ホームの柱に駅名が、見えた。「あやし」だ。
こんな可愛らしい彼女に言うてはならぬ。笑顔笑顔。私が山寺から戻ってきた時、キャスター付きのバッグを押して、駅から出て来た彼女を見ている。雨が強くなっていた。
彼女はすぐに帰って来た。聞けば階段は登らなかったという。もったいなや。ここまで来てあの絶景を見ずに帰るとは
連載:旅1