連載:旅1

「今すぐ仙山線に乗って山寺へ」:オカンの東北一人旅⑭

「あなた、来る時変わった駅名気付かなかった?」
「いいえ」

それどころではなかったのだ。前に座った彼女はなかなか先を言わない。

「愛するの愛に子供の子で愛子」
お手上げだ。

「赤ちゃん抱っこしてどうする?」
「あやしますね?あやす?」
その時ホームの柱に駅名が、見えた。「あやし」だ。

こんな可愛らしい彼女に言うてはならぬ。笑顔笑顔。私が山寺から戻ってきた時、キャスター付きのバッグを押して、駅から出て来た彼女を見ている。雨が強くなっていた。

彼女はすぐに帰って来た。聞けば階段は登らなかったという。もったいなや。ここまで来てあの絶景を見ずに帰るとは