夕蝉の調べ爽やか遠き日に


 雨洗ふ野川一せいに夕の蝉  細見綾子

 眼ひらきて鳴く夕蝉に似たらずや  鷹羽狩行

 顔置いて夕蝉の木々にかこまるる  石川桂郎 含羞

 子の熱が出る夕蝉に息あはせ  松村蒼石 雪

 傷癒やす湯や夕蝉の声長し  大野林火 白幡南町 昭和三十年

 日の道盡きぬ夕蝉と惜み歎けども  荻原井泉水

 妊りしやと夕蝉の声おこす 鷹羽狩行

 墓地の道夕蝉われにぶつかり飛ぶ  大野林火 海門 昭和十四年

 夕蝉にふわりとひらく狐茸  松村蒼石 寒鶯抄

 夕蝉に一線の水脈生れけり  大野林火 青水輪 昭和二十三年

 夕蝉に鶏頭がまづ暮るるなり