『風電話』

『何してた?』
『本、読んでた』
『目の前にグラスは?』
『ないわよ。 マグカップはあるけど』
『寝酒、止めたの?』
『そう。 ホットミルクにしてるの』
『君が、ホットミルクね』
『可笑しい?』
『いや、そんなことはない。 いいなって感じ』
『で、あなたは?』
『俺、俺は、ホット』
『ウイスキーでしょ』
『よくわかるねえ。 見えてる?』
『後ろで、風の音がするから』
春でも、声の向こうで、不思議な風が吹いているのかもしれないと、彼は思った。

カテゴリ:アート・文化