百田尚樹「海賊とよばれた男」

 単行本の帯に「ページをめくるごとに、溢れる涙」というキャッチフレーズが描かれているが、すっかり涙腺の弱くなった私は何度も涙を堪えたのは事実。初めは抑えた筆致に乾いた文体と感じていたが、作者が務めて透明になることで登場人物に感情移入しやすくする仕掛けか。主人公の国岡鐵造がゼロから創業し、既存の商圏の縄張りに割って入り、玄界灘で自在に暴れ回り海賊の異名をとった。太平洋戦争が始まり国内は統制が厳しくなり、海外に活路を拓くも敗戦ですべての資産を失う。重役たちは人員整理を主張するも店主の鐵造は一人の馘首もならんと厳命する。人間尊重の精神である。どんな苦境にあって