連載:人生諸相

夏の海の記憶

波涛にきらめく光の散乱はいつもゆえ知れぬ痛みを伴う。

過ぎ去った数知れない思い出の破片が波頭にただよっている。

いつとは知れぬ遠い日の悲しみに似たものがよみがえる。

もう一度呼び戻すことのできない遠い青春の日々の光と影。

誰とも言えぬ数々の微笑みが光の中に交錯する。

思い出せないもどかしい日々の残照が黄昏に消えていき、

心の海底に深くよどんでいた情念が、無数の気泡のように

浮かび上がってきて、とりかえしのつかない悠久の時を悟る。

カテゴリ:アート・文化