その犬の歩むところ

 馳星周の「少年と犬」を読了した。著者は直木賞作家で、ロマン・ノワール(暗黒小説)出身であるが、最近は山岳小説や犬をモチーフとした小説等、異なったジャンルの作品が増えている。本書は、2020年第163回直木賞受賞作であり、東北大震災の被災地から九州に向かう犬を描いた連作短編集である。本書の主人公(主人犬?)は、東北大震災の時に釜石で飼われていた多聞という名前の、シェパードと和犬の雑種犬である。震災で飼い主を失った多聞は、その後何故か南を目指して放浪を始める。そして、五年後に多聞は九州の熊本県に辿り着くが、彼が南を目指して日本を縦断した理由は、物語の最後に