115、「新生前編」(全2冊)(島崎藤村著)は岸本捨吉の生きざま描く

「新生 前編」(全2冊) 島崎藤村著 岩波文庫
1956年1月9日発行
ー「岸本君ー永遠に堕ちて行くのは無為の陥穽である。無為の陥穽にはまった人間にもなお1つ残されたる信仰がある。二千年も三千年も言い古した、哲理の発端で総合である無常ー僕は僕の生気の失せた肉体を通して、この無常の鐘の音を今さらながらしみじみときき惚ることがある。これが僕のこのごろの生活の根調である」
 友人の手紙が岸本の前にひろげてあった。
 彼の妻は7人目の女の子を産むと同時に産後の激しい出血で亡くなった。
 山をおりて都会に暮らすようになってから岸本には7年の月日がたった。
 彼の長