連載:読書

「長いお別れ」

「『長いお別れ』と呼ぶんだよ、その病気をね。少しづつ記憶を失くして、ゆっくり遠ざかって行くから。」

アメリカでは認知症を「長いお別れ」と呼ぶ。

「母の記憶から自分が抜け落ちていくプロセスを、晴夫は少しづつ、少しづつ体験した。行けば必ず、よく来たねえ晴夫、仕事はどうなの、と聞いてくれた母が、いつのまにか名前を呼ばなくなり、母自身の弟の名前と混同するようになり、それすら出て来なくなっていくのを、静かに遠ざかって行く引き潮のように、感じていた。」

元中学校校長だった父親が認知症になり、母親が面倒みていたのだが、その母親が病気になり、ある日突然親の介護が降