草原の覇者

 北方謙三の「チンギス紀 (八) 杳冥」を読了した。著者はハードボイルド出身の作家であるが、先日完結した大水滸シリーズ等、最近は中国史を題材とした歴史小説が多い。本書は、ユーラシア大陸に拡がる大帝国の礎を築いた英雄チンギス・カンの人生を描いた物語の第八巻であり、モンゴル族を統一したテムジン(のちのチンギス・カン)がケレイト王国のトオリル・カンを破り、草原の最大勢力になるまでが描かれる。
 テムジン軍に敗れ、瀕死の重傷を負ったタイチウト氏の長のタルグダイの妻のラシャーンは、夫を抱えてメルキト族前族長のトクトアが隠棲する森に逃げ込む。タルグダイは妻の必死の看