連載:読書

「今だから読みたい小説『老境』」

「2011年3月10日。
本書の単行本の奥付には、この日付があります。」

「その翌日、3月11日の2時46分、東日本大震災が発生しました。
東日本の太平洋岸を襲う津波の映像に、テレビの前で、私たちは声を呑むことしか出来ませんでした。日が暮れると、停電で闇に沈む三陸地方に、津波が引き起こした大火災の炎だけが赤赤として、それを見つめて父はまたこう言いました。あの空襲の時と同じだ、と。」

「私が住んでいたあたりでは大きなインフラの被害はなく、液状化現象も起こらなかったのですが、頻繁な余震と相次ぐ緊急地震速報に、恐ろしいものに追い立てられているかのような心地