連載:こころの風景画 Ⅰ

この水を飲む者はまた渇く Ⅲ   トマト畑

直開けの猛暑がカッと照りつける。朝日が眩しい。
ややうつむき加減の急ぎ足で、病院から五分ほど離れた職員駐車場へ歩いている時だった。
「かんごふさ~ん」どこかで声がした。振り返るが誰も見えない。
「ここですよ~」
トマト畑の中からの声に目を向けると、一人の中年の女性が立っているではないか。

「これ!」
どこかに見覚えのある女性だった。腕にはスーパーのポリ袋に一杯のトマトを抱えていた。
「わたし・・・今日看護婦さんがここを通るのを待っていました。あの時糖尿病教室でお世話になったSです」
私は少し戸惑った。私が当直明けでここを何時頃通るのかを、待っていたのか