さんが書いた連載こころの風景画 Ⅰの日記一覧

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何しにきたとですか

この話は、介護保険が始まる少し前のことになる。  ある健康保険組合からの委託で、健康保険料を沢山使っている家庭に訪問指導なる業務をしたことがあった。つまりその方の健康状態を調べて報告と言う仕事だった。  その時の対象者は95歳のDさんと言う女性だった。入院退院を繰り返しており、訪問してその自宅での日常生活や健康状態を報告することだった。 今回は老人保健施設(いわゆる老健)から退所したばかりで…

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たこ焼きが始まりだった

あれは子供たちが何歳くらいの時だっただろうか。小学生頃だと思う。昭和50年代~60年代か。 夫が大阪へ出張した帰りのこと、冷凍のたこ焼きを土産に買ってきたのが始まりだった。 大阪のたこ焼きはうわさには聞いていたが、解凍して食べるとこんなに美味しい物だとは知らなかった。それが私と大阪のたこ焼きとの出合いである。育ち盛りの子供たちは競ってほおばりアッと言う間にお皿から消えてしまう。関東育ちの私は…

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この水を飲む者はまた渇く Ⅳ   まだ若いあなたに

「夏に咽喉が渇いて、渇いて仕方なくてさ、だから自販機の缶コーヒーを、あれで何本くらい飲んだかなぁ・・・」 Jさんは少し童顔であったが、更に高校生みたいな顔になって照れながら話し始めた。28歳独身だった。 入院すると既往歴、現病歴を聞くことになる。Jさんの母親が既に糖尿病で治療中だった。だからJさんはある程度病気に関しては知っていたかもしれない。しかしそれが自分にも押し寄せて来た病気だと思って…

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この水を飲む者はまた渇く Ⅲ   トマト畑

直開けの猛暑がカッと照りつける。朝日が眩しい。 ややうつむき加減の急ぎ足で、病院から五分ほど離れた職員駐車場へ歩いている時だった。 「かんごふさ~ん」どこかで声がした。振り返るが誰も見えない。 「ここですよ~」 トマト畑の中からの声に目を向けると、一人の中年の女性が立っているではないか。 「これ!」 どこかに見覚えのある女性だった。腕にはスーパーのポリ袋に一杯のトマトを抱えていた。 「わたし・…

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この水を飲むものは又渇く Ⅱ

なんだかドラマに出てくる浮気の現場(?)に遭遇したような気持ちになり、患者さん達のその慌てぶりに私はいささか失笑した。 制限されている心理状態には何倍もの欲求が働くのだと感じた瞬間だった。私はまだ、40代になったばかりだった。 今だから言えることだが、その患者さん達のサイドテーブルには山のような食料が、それは上手に隠してあった。私達はもっと患者さん達の制限食の辛さに気づくべきだったし、そこか…

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この水を飲むものは又渇く Ⅰ

私が糖尿病に関心を持つきっかけがあった。 病院の看護部の教育方針としては誰もが何かの研究テーマを持ち看護に活かすような指導があったことに始まる。 院内で毎年行われる院内学会(通称ミニ学会)は全職員の研究発表参加の機会になっていて、その研究発表会は年に一度の全国的な学会に発表する先駆けになってもいた。 病棟勤務時代のこと、その病棟の上司から幾つかの研究テーマを与えられていたが、どれかにみんな属…

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あなたの熱心さがお母さんを救った

今日から過去に書いたエッセイをアップしようと思う。 昨日、再び過去に出版したエッセイ集「こころの風景画」を読んで、これが10年前の私の偽らざる心かと思ったからだ。 ………………… ある総合病院に勤務していた40代の頃の話である。 夜間や休日の急患の診療体制は医師やナースが交代制であるのは今も変わりないと思うが、その病院でも各科の医師、看護師の主任以上が、夜間休日の救急外来を所属部署の勤務以外…