ひとつ話してみよう ~置き土産~

忘れていないから、思い出すんだろう。 わかってるような口を聞いてみたくなる。
でも、どれくらい前かなんて、もう覚えていない。 いい加減なものだ。
俺が住んでる坂の街に、まだ、あいつの絵が、飾ってある喫茶店があった。 そう、あっただ。
だから、今は、ないってこと。 
あいつが、いっぱい描いていたったことは、俺は、痛いほど、知っている。
なのに、あいつの絵は、その喫茶店にあった一枚切りに、なってしまっていた。
ほかの絵たちは、みんな、どこへ行ってしまったのだろう。
そして、明日は、満月だというあの日、この町を出て行ってしまったあいつは、どこへ行ってしまったの