「ひとつ話」の日記一覧

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ひとつ話してみよう ~裏坂道~

朝も、夜も、秋があふれてくる今頃になると、夏がいなくなる寂しさを感じる。 でも、そんなこと思っても、仕方ないってことも、わかっている。 だから、夜になると、路地裏に坂道だらけの街に住んでる俺の夜散歩が始まる。 今夜も、お気に入りの裏坂道を、ゆっくりと歩こう。 月がきれいなあの夜に出逢ったショートヘアの彼女、そう言えば、この街に、また、来てるらしい。 久しぶりに、逢えそうな気がする。 そう、気がす…

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ひとつ話してみよう ~双子グラス~

他人なんだけど、なんか、似てるってこと、ある。 兄弟じゃないけど、他人に思えないやつも、たまに、いる。 教会が多いこの町に住んで、俺も、ずいぶん長くなったけど、あいつは、女だけど、弟って感じだった。 それも、ずっと昔、昔のことだ。 教会の鐘の音が聞こえる坂道を上りあがったところに、あいつのカウンターだけの店があった。 そう、もう、今はない。 『待ってたよ』 そう言って、いつものグラスを、出してく…

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ひとつ話してみよう ~歌手ごっこ~

なりたいものになれなくて、がくっとくるのは、いつものことだ、俺にとって。 もう、どこまでも遠いことだと、今は、思っている。 後悔の川は、まだ、俺の心の中で、流れている。 それぐらいは、いいよなって、この石橋の下の川面を見つめてつぶやく。 俺の住んでる石橋だらけのこの街に、ずいぶんと前、歌手くずれのある女が、いた。 そう、もういないけど。 『お兄さん、歌手ごっこしない?』 『なんだよ、それ』 『あ…

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ひとつ話してみよう ~閉店間際~

いつもの道は、安全だけど、たまに、それはやめとこうと思う時がある。 近道が好きだけど、今日は、ちょっと遠回りでもいいかって、思う時もある。 忘れるくらいずっと前、そんな気分になった秋があった。 俺の住んでる港町の、波止場近くの裏道に、その店がある。 多分、今でも、あると思う。 あの日から、一度も行ってないので、確かなことはわからないが。 飲みたいわけじゃなかったけど、まっすぐ帰るには、惜しいよう…

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ひとつ話してみよう ~置き土産~

忘れていないから、思い出すんだろう。 わかってるような口を聞いてみたくなる。 でも、どれくらい前かなんて、もう覚えていない。 いい加減なものだ。 俺が住んでる坂の街に、まだ、あいつの絵が、飾ってある喫茶店があった。 そう、あっただ。 だから、今は、ないってこと。  あいつが、いっぱい描いていたったことは、俺は、痛いほど、知っている。 なのに、あいつの絵は、その喫茶店にあった一枚切りに、なってしま…