池波正太郎「江戸前 通の歳時記」

 著者は東京下町の生まれ、両親が離婚し、母親に育てられた。どちらかと言えば貧しい家庭のはずだが、下町の家庭はどこも似たようなもの。小学校を卒業すると今なら証券会社の外交員になり、そこそこ稼いだようで若いながらもいいものを食べている。貧乏性の私には今でも料亭など近寄ることもない。著者が生きたのは戦前、戦後の前半でまさに昭和の時代。著者の食通は孤独のグルメとは異なる、下町の人情も濃厚に絡んでいる気がする。

 本書の大きなボリュームを占めるのは「味の歳時記」と題した章で、1月から12月まで旬の食材が1つ取り上げられ、その食材にまつわる著者の個人的な思い出や逸