第三章 疑惑
平日の午前十時過ぎの下りの新幹線はがら空きである。
3号車のE席に腰を降ろし、飛び去って行く窓外の景色をぼんやり眺めながら瑤子夫妻の在りようと自分たち夫婦をあれこれ比べてみる。
自分たちにあんな暮らしがあっただろうか?
夫が普段朝食もそこそこに慌ただしく出てい行くのは仕方がないとして、日曜の朝ぐらいはもっとゆったり出来ないものだろうか?
(一度ゆっくり話し合ってみよう)
思いを巡らせながら一時間ほど走ると、列車は富士川の鉄橋にさしかかる。
富士山が最もよく見える場所だが、晴天にも拘らず霞が掛かって裾野の辺りしか見
連載:金木犀の香る頃に 改訂版