第六章 着物のモデル
窓を開けるとカーテンを揺らして甘い香りが流れ込んできた。
紛れもない金木犀の香りである。
数年前には九月に咲いていたのに、去年は散々気を揉ませた末、十月の中頃にやっと咲いた。
(あれからもう五か月も経ったんだ)
瑤子の夫の作品に添えられていた手紙には、モデルになるのを少し待って下さいと答えたのだが、今の繭子には自信がついている。
瑤子の夫はあの時の気持ちのままでいるのだろうか?
そんな事を考えていると、当に以心伝心の様に瑤子から電話がかかって来た。
「今電話いい?」
「御免ね。ご無沙汰しちゃって」
「そ
連載:金木犀の香る頃に 改訂版