連載:金木犀の香る頃に 改訂版

金木犀の香る頃に 蛙川諄一 第5回

 第五章 変身願望

 繭子は開け放たれた窓からぼんやり飛行機雲を眺めていた。
 それはまるで青空のチャックを開いていくように見える。

 小説を読んだり、音楽を聴く事の好きなインドア派の繭子と、サッカーやゴルフに夢中なアウトドア派の純一では元々話が合わなかったのである。

 (新婚時代の甘美な肉体関係だけを愛だと勘違いしていたのではないか)

 『結婚は恋愛の墓場である』と言われるが、繭子はその燃えるような精神的恋愛の過程が欠落したまま墓場まで来てしまったのではないかと思う事がある。

 そこへ行くと、瑤子はふと立ち寄った美術画廊で夫の作品のファンにな