連載:金木犀の香る頃に 改訂版

金木犀の香る頃に 蛙川諄一 第9回

第九章 里帰り

 十一月も中半、そろそろ紅葉も見頃を迎えつつある。

 稲垣靖二は娘の繭子から二十三日に自分の肖像画が届くと言う連絡を受けて何処へも出かけずに待ち構えていた。

 配達員が大事そうに抱えて届けたのは、一目で額縁と分かる可成り大きい荷物である。

 靖二の家、すなわち繭子の実家は阪神大震災の後、彼自身の平面計画の通りに建てた理想的な建物である。
 リビングの北側の壁面には額縁を掲げる為のピクチャーレールが取り付けられて居る。

 靖二は妻の和子と二人で急いで包を開いた。
 厳重な梱包を開け、クッション材を取り除くと黄色のフランネルに包ま