連載:金木犀の香る頃に 改訂版

金木犀の香る頃に 蛙川諄一 第10回

 第十章 夫と義父

 年が明けた。

 新年の二日には、繭子夫婦は実家を訪れるのが例年の習わしである。
 それに二人揃って顔を出すのは年に一度しかない。
 繭子は気の進まぬ夫の純一を伴って玄関のドアーを開けた。

 「おめでとう御座います」
 「おう、来たか来たか」

 繭子の父親は一杯飲んで上機嫌である。

 「さあさあ、堅苦しい挨拶はいいから早く上がれ。いつもご苦労だね。随分忙しそうだがあまり無理するなよ」
 「あ、はい。有難う御座います。大丈夫ですから・・・」
 「まあ、一杯飲め。君は会社では部下だが、義理とは言え私の息子なんだから、その事も忘れ