第十九章 別居
千里の事が露見して以来、純一は繭子と殆どと顔を合わす事がない。
朝は繭子が起きない内に出て行ってしまい、夜は繭子が寝静まった頃を見計らって、こそっと帰って来る。
頃合いを見て新しい肌着を出して置くと着替えているから、寝に帰って居るのは確かである。
そんなある日、純一が突然早く帰って来た。まだ昼過ぎである。
きっと父から何か言われたからに違いない。
「話がある。ちょっと聞いてくれないか」
繭子は素知らぬ顔で純一と向き合った。
「お前、お父さんにみんな話してしまったんだな。今日社長室へ呼ばれたよ。辞令が出
連載:金木犀の香る頃に 改訂版