積年の恨み

 ジョン・ル・カレの「シルバービュー荘にて」を読了した。著者はイギリスのMI5(軍情報部第5課)、MI6(秘密情報部:SISの通称)勤務を経て小説家としてデビューしており、前職の経験を活かしてスパイ小説をテリトリーにしている。なお著者は、2020年12月12日に亡くなっている。本書は著者の遺作であり、死に臨んだ元大物諜報部員の女性からの告発の手紙に始まる、退役したイギリス秘密情報部工作員を巡る騒動を描いた作品である。
 物語は朝の激しい雨の中を、二歳の息子のサムの手を引いたリリーという若い女性が、ロンドンのウェスト・エンドのサウス・オードリー・ストリート