連載:読書

「本屋大賞『同志少女よ、敵を撃て』」

本を読まない期間が続いた。買ったはいいが積ん読だけの本が何冊もあった。中でも気になっていたのは「2022年本屋大賞」。『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬著 早川書房。表紙は美しい少女が銃を構えた絵。今までの文芸書にはない雰囲気だ。

ところが最初の1頁で本の世界に引きずり込まれる迫力満点の一冊だった。

「照準線の向こうに獲物を捉えたとき、心は限りなく『空』に近づく。単射式ライフルTOZ_8を構え、T字照準線の向こうに鹿を捉えたとき、十八歳になった少女、セラフィマ•マルコヴナ•アルスカヤは、これまでに何度も経験した、その境地にいた。距離は百メートル