池波正太郎「鬼平犯科帳6」

 今回のスタートは尋常ではない。長谷川平蔵が寝込んでいるのである。年中昼夜を問わないお役目に、さすがの平蔵も疲労が蓄積してひたすら寝込んでしまう。そんな間にも事件は起こる。2日ほど寝込んだ翌朝には早朝から早速動き出す。単に役目だからではなく、火付盗賊改方長官が無性に性に合っているのだ。だから、世情の情報を取るために私財も吐き出しており、その献身ぶりに部下の者たちも身を粉にして働き、かつての盗賊たちも密偵となって捜査に協力を惜しまないのだ。

 かつての盗賊が足を洗って庶民としてささやかに暮らしていることもあれば、若気の到りで人を殺めてしまったこともあ