隆慶一郎「死ぬことと見つけたり 上」

 冒頭は異様な雰囲気で始まる。主人公がいきなり虎と戦って死ぬのである。といっても、これは今で言えばイメージ・トレーニングに当たる。真の葉隠武士は毎朝死ぬイメージ・トレーニングを行う。藩に仕えると色々としがらみができてしまうので、敢えて仕えず浪人として暮らす。だが、一度戦となれば、藩主のために命を投げ出すことに何のためらいもない。葉隠武士は死人として生きるのである。かと言って、命を粗末にすることもない。意識的に失うものをなくしているので、葉隠武士の強さは鳴り響いていた。

 本書の主人公は佐賀鍋島藩の斎藤杢之助という浪人である。父も同じく浪人であった。