バイアリータークの血統

 馳星周の「ロスト・イン・ザ・ターフ」を読了した。著者は直木賞作家で、ロマン・ノワール(暗黒小説)出身であるが、最近は山岳小説や、犬等の動物をモチーフとした小説等、異なったジャンルの作品が増えている。本書は、競馬を愛する中年の男女達が、とある馬を種牡馬として残そうと考えたことに始まるドタバタを描いた、少しサスペンス風味も加味したラブコメディである。
 三十代の倉本葵は、代々木で亡くなった兄の聡史遺した競馬バー「Kステイブル」を経営している。ある日、店の常連客の前島芳男達と大井競馬場のナイター競馬に出かけた葵は、パドックで見かけたウララペツという芦毛で九