神業の内視鏡手術

 夏川草介の「スピノザの診察室」を読了した。著者は、長野県の病院で地域医療に従事する現役の医師で、「神様のカルテ」により第10回小学館文庫小説賞を受賞し、作家としてもデビューしている。本書は、最愛の妹の忘れ形見を育てるために、大学内での昇進を諦め、地域医療の道を選択した凄腕の医者の姿を描いた作品である。
 物語は真夏の京都の住宅街で、地域病院である原田病院の三十八歳の内科医のマチ先生こと雄町哲郎が、七十四歳で胃癌ステージⅣの坂崎幸雄を往診する場面から始まる。往診が終わった時、雄町は病院から救急の呼び出し電話を受け、自転車に乗って病院に帰る。彼は往診には