永井荷風と深川周辺  その1

晩年、荷風は千葉県市川市で過ごし没している。そんなことから市川市は「永井荷風文学賞」を創設するという。
荷風は山の手の裕福な家で育ち、若い頃は落語家を目指していた。深川に常磐亭という寄席があり、頻繁に両国から船に乗り、今の新大橋付近で下船し、深川に通っていた。

今の様に交通機関がまだなかったころの話で、寄席があった常盤付近を中心に深川を歩き回ったそうだ。そんな当時を回想した隋筆『雪の下』(昭和18年)に深川界隈の様子が描かれている。

「立迷う夕靄に水辺の町はわけても日の暮れやすく、道端の小家には灯がつき、路地の中からは干物の匂いが湧き出て、木橋を渡る