『万葉集』を訓(よ)む(その二千七十五)

 今回は、一七〇八番歌を訓む。題詞に「泉河邊作歌一首」とあって、本歌は、「泉河(いづみかは)の邊(ほとり)にして作(つく)る歌(うた)」である。「泉河(いづみがは)」は、一六九五番歌他に既出、現在の木津川。京都府木津川市一帯はもと泉の郷と呼ばれ、このあたりから下流を泉川と称した。
 写本に異同はなく、原文は次の通り。

  春草 馬咋山自 
  越来奈流 鴈使者 
  宿過奈利

 一句「春草」は「春草(はるくさ)を」と訓む。「春草(はるくさ)」は「春になって萌え出る草。若草。」をいう。下に格助詞「を」補読する。
 二句「馬咋山自」は「馬(うま)咋山(く