『万葉集』を訓(よ)む(その二千八十)

 今回は、一七一三番歌を訓む。題詞に「幸芳野離宮時歌二首」とあり、本歌と次歌(一七一四番歌)の二首は、「芳野(よしの)の離宮(とつみや)に幸(いでま)しし時(とき)の歌(うた)」である。なお、次歌の左注に「右二首作者未詳」とあって、この二首の作者はわからない。
 写本に異同はなく、原文は次の通り。

  瀧上乃 三船山従 
  秋津邊 来鳴度者 
  誰喚兒鳥

 一句「瀧上乃」は「瀧(たき)の上(うへ)の」と訓む。この句は、二四二番歌一句「瀧上之」と連体助詞「の」表記が異なるだけで同句。「瀧(たき)」は、「急な斜面を激しい勢いで下っている水の流れ。急流