『万葉集』を訓(よ)む(その二千八十一)

 今回は、一七一四番歌を訓む。本歌は「芳野(よしの)の離宮(とつみや)に幸(いでま)しし時(とき)の歌(うた)」の二首目。左注に「右二首作者未詳」とあって、この作者はわからない。
 写本に異同はなく、原文は次の通り。

  落多藝知 流水之 
  磐觸 与杼賣類与杼尓 
  月影所見

 一句「落多藝知」は「落(お)ちたぎち」と訓む。「落」はタ行上二段活用の自動詞「おつ」の連用形「落(お)ち」。「おつ」は「水が勢いよく流れ下る。」ことをいう。「多」「藝」「知」は各々、タ音・ギ(甲類)音・チ音の常用音仮名で、「多」は片仮名の、「知」は平仮名の字源。「多藝知