『万葉集』を訓(よ)む(その二千九十四)

 今回は、一七二七番歌を訓む。題詞に「和歌一首」とあり、本歌は前歌(一七二六番歌に「和(こた)ふる歌(うた)」である。
 写本の異同は、五句の一字目<妾>。この字、『細川本』『大矢本』と版本に「妻」とあるが、その他の諸本いずれも「妾」とあるので、これを採る。なお、五句の原文とその訓については、誤字・脱字説を含めて諸説があるなかで、井上『萬葉集新考』に「妾名者不教の誤としてワガ名ハノラジとよむべし」として以後これに従う注釈書が多いが、ここでは武田『萬葉集全註釈』に「原文のまゝにワレハシカナクと讀み、旅行く人に比ぶべき身分の者でないから」とあるのを支持する。